本の森と狼さん。
「ぇ、」
わたしは何がなんだか分からず
ひきつった笑顔のまま
言葉にならない声を発した。
変わらずその人はニコニコしている。
暖かくない、
冷たい笑顔。
「だからさ、そうやって
『だれか私に気づいて』みたいなの、
見てると虫酸がはしる。」
あまりにもストレートな非難に
意味を飲み込むのに時間がかかった
-----な、なにか言わなきゃ
「そんなつもりじゃ…」
「自分のこと可哀想だとでも思ってる?」
なんとか否定するも
その人は言葉を止めない。
「ち、ちがいます」
「わざと微妙にこんな場所を選んで
毎日ここ来てさ…」
----あれ、なんで私
こんなことになっちゃってるの
いつもと変わらない日常
いつもと変わらず過ぎていくはずだった
「少女漫画のヒロインかっつーの」
その人は笑みを崩さない
わたしは、鼻の奥がツンとして
目頭が熱くなってきた。
----この人は何でこんなに
わたしを非難するんだろう
ついに涙がこぼれてしまう寸前、
「浜尾ーっ!」
どこからか聞こえてきた
図書館には不釣り合いな怒号によって
こぼれかけていた涙がひっこんだ
驚きのあまりキョトンとしていると
その人は罰が悪そうに舌を鳴らした
「チッ…生徒部の中沢だ」
生徒部の中沢先生
学校一の強面体育教師。
「浜尾ーっ!どこだーっ」
かなり怒っているらしく、
場所を考えずに怒鳴り散らし
司書の先生にいさめられている。
----浜尾っていうのかこの人
「とにかく、
二度とウザったいことしないでよ」
口早にわたしに告げると
「浜尾」であろう、その人は
静かに本棚をすり抜けて行った。