ぬくもりをもう一度
「で、でも……。

 あ、ほら。

 この近くに新しいお店が

 オープンしたの、知ってる?

 ゆったりとくつろげる、

 バーなんだって」


目をコロコロとさせながら

俺を引き止めようとする

その姿は、

本当に健気で可愛い、と思う。


でも、今の俺の心には

全くといっていいほど、

無意味なものだ。


「いや、いいよ。

 じゃあ、俺はこれで」


待って、

と必死な野々原の声を

背に受けて、

俺は振り返らずに

店の出入口へと向かった。


冷たい微笑みを見せるウェイターに

2人分の食事代を支払ってから、

埃まみれの雑踏へと足を踏み入れた。





< 39 / 297 >

この作品をシェア

pagetop