ぬくもりをもう一度
歌い終わると、

それまで閉じていた目を

ゆっくりと開く。


目の前にいる香澄がふわりと微笑んで、

「ありがとう」

と口にした。


俺のちっぽけなプライドが

邪魔をしたせいで、

大切な香澄を

手放してしまうことになるなんて……。


本当に情けなくて、

自分が嫌になる。


多めに頼んでおいたビールを

指差して飲んでいい、と聞く香澄に、

俺は黙ってこくりと頷いた。


口にした瞬間、

香澄の眉間にシワがよる。


そういえば、

香澄はあまりビールが

得意ではなかったよな。


鉄のような匂いが好きではないと、

学生の頃呟いていたのを思い出す。


「じゃあ、

 今度は私が歌っても、いいかな」



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