冷たい雨に咲く紅い花【後篇ーside実織ー】
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走りたどり着いた先の扉を開けると、
ツンとした消毒薬の匂い、
そして、
「あれ、実織ちゃん?」
柔らかで一気に気の抜ける様な声が聴こえた。
「……吉、水さん…」
診療時間の終わった待合室で、
珈琲片手にカルテを眺める彼が、
驚いたようにこちらを向いた。
「すみません、遅くなっちゃいました」
院内用のスリッパに履き替えながら
私がそう言うと、
「まだそんなに走っちゃ駄目だよ。傷は?痛まない?」
うつむいた私の顔を、
吉水さんは心配そうに覗き込む。