AZZURRI~AZZURRO番外編~
「え?
隠した物ですか…。何もありませんよ。」

普通なら貴族であり、高い身分を持つ人間から言われたら
すぐに差し出しているだろう

しかし
庶民の貧困層出のケシャは諦めない

仮にも上司に当たるジャンの命令をごまかそうと必死に
笑顔を貼りつけた

「そんなことより夕食はいかがなさいますか?
お部屋にお運びいたしましょうか?」

話を逸らそうと必死に言葉を続けるケシャに
ジャンはもう一度同じ言葉を繰り返す

「隠した物を見せなさい。」

しかし今度は
言葉に纏う冷気が一瞬にしてその場を凍らせた
そして、灰色がかった瞳が真っすぐにケシャの栗色の瞳を射抜いた

「…。」

こうなったらケシャに為す術はない
ジャンを本気で怒らせてこの世に存在していることなど不可能だと
彼女は本能的に察知した

そして
おずおずと一輪の花を差し出した

それは真っ白な花弁が幾重にも重なった八重バラだった

「これは珍しい。
南地方に生息しているバラだな。
どうしてこれをケシャが持っているんだ?」

「…えーーと…。」

仕事に忠実でいつも礼儀正しくきびきび行動しているケシャには珍しく
歯切れの悪い態度にジャンは疑問を抱く

商人から買ったのだろうか
しかし、このように高価なもの…自分の為に買うか?
いや、ユキノ様の為になら買うかもしれん…

憶測を建てる中ケシャから聞こえたのは全く予想外の言葉だった


「男性から頂きました。」
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