聖†少女
少女は、踊るように階段から飛び降りると音もなく私の隣に立った。
「あーぁ、もう少しだったのに」
何がもう少しだったのだろうか、疑問を口にしようとした途端
「あんたには関係ないでしょ?それとも、あんたは疑問に思ったことは何でも聞くタイプ?言っておくけど、今時そんなのはモテないわよ?」
そのよく回る舌に私は吃驚した。
「何よ、初対面でこんなにお喋りなやつは見たことがない?あはは、ならあたしはあんたにとって新しい種類の人間な訳だ♪」
私に喋る暇を与えず、少女は捲し立てる。
「勿論あたしにとってもあんたみたいに静かな人間は初めて見たわ。みんなあたしを見る度に吐き気がするような口説き文句ばかり……。鬱陶しいからさっきも3人ぐらい殺ってきちゃった☆ほら、入り口のところにキモイ木乃伊があったでしょ?あれ、あたしの仕業なんだ☆」
(…ん?)
今、目の前の少女は何かとんでもないことを口走っていたような……
「それにしても、あんたほんとに静かね。最近の『浄化師(カタルシサー)』ってみんなそうなの?」
『浄化師(カタルシサー)』、という単語を耳にした瞬間私は身構えた。
「…なぜ、……どうして私が『浄化師』だと知っている。それに、お前はさっきから何を言っているのだ。木乃伊がどう、とか、お前如き少女が冒涜者なんて、信じられるか!!」
一分の隙もなく、私は少女を見据える。
「…」
少女は妙に冷めた瞳で私を見詰め、
「……はぁ、これだからモテないやつは…」
再び此方を見詰めた少女の口元には、凄惨、とまでは行かないが、邪悪な笑みが浮かんでいた。
「…別に、あたしが何者であろうとあんたには関係ないじゃん?『浄化師』であるあんたは、『冒涜者』であるあたしを『浄化』させる。そうよ、あたしが今宵の獲物。さぁ、『浄化』出来るならしてみなよ……」
挑発的に此方を見詰め、その口元に張り付いた笑みを更に酷薄にし
「『絶世の美女』アフロディーテの生まれ変わりをね!」
高らかに、名乗った。