聖†少女

アフロディーテ、古代ギリシア神話に出てくる美の神。

クロノスによって切り落とされたウーラノスの男性器にまとわりついた泡から生まれ、世界に「美」と「愛」を生み出した女性。

……そういえば、大分前お母様から聞いたことがあった。

『近頃は、「アフロディーテ」の生まれ変わりと名乗る少女が悪さをしているそうよ』

しかし、今日『浄化』したのは皆、性欲に飢えたおじさんや強盗や空き巣を企てた人達ばかりだった。

もしそんな少女がいても、私の敵じゃない。

私はそんな風に高を括って今日の『浄化』に勤しんでいた。




……その時までは。




「ほらほらぁ!情けないわねぇっ!!」

早い、彼女と闘って最初に思ったことはそれだった。

「く…っ…!」

踊るように攻撃を掻い潜り、『聖銃』を放つ。

「…こっちよ」

『聖銃』が着弾したところには、もう少女の姿はなく、少女はいつの間にか私の背後に移動していた。

「くっ…!!」

背後の少女に向け、短刀で斬りかかる。

が、斬りかかったはずの場所にはまたしても少女はいなかった。

「…ねぇ、『浄化師』ってみんなその程度なの?」

落胆したようなその声に、私は苛立ちを隠せなかった。

「ふざけるな!お前がすばしっこいだけだろう!」

む、と不機嫌そうな顔になった少女は

「別に、あたしはすばしっこくなんてないし。それに、まだ全然本気なんて出してないんだよ?」

淡々と告げるその姿は、何も恐れていないようだった。

「……どうして…」

気付いたら、そんな言葉が自然に漏れていた。

「何がよ」

「どうして、そんな平然としていられる。貴女はこれから『浄化』されるのだぞ?怖くないのか?」

少女の問いに畳み掛けるようにして答える。

「貴女は命が惜しくないのか?死ぬのが、怖くはないのか?」

暫く重苦しい沈黙が続いた。

すると少女は鋭い眼差しで此方を睨み

「…怖くない訳、ないじゃない…」

掠れるような声で、言った。

まるで、世界の全てを否定するかのような声だった。

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