聖†少女
どのくらいの時間が経ったのだろうか、少女は重々しく口を開き
「…あたしが『生まれ変わり』だって気付いたのは、あたしがまだ幼稚園だったころよ」
周りの男子が、あたしだけ特別扱いしてくることが、堪らなく疑問だった。
少女はそこまで言うと、一端言葉を切った。
『生まれ変わり』には、最初から自分が『そう』だと知っている者と、ある日突然『そう』だと知る者がいる。
私の場合は前者だったが、世界には圧倒的に後者の方が多い。
「あたしは、母親に聞いたのよ『どうしてみんなあたしを特別扱いするの?』って、……愚問よね、だってあたしはアフロディーテの生まれ変わりなんだから」
当然母親もそのことは知っていたわ。
だけど、まだ幼かったあたしは「生まれ変わり」とか「女神」とかはよくわからなくて、「自分は普通じゃないんだ」って思うようになったの。
それからよ、「自分は普通じゃない、だから『普通』の人間に何をしても構わない」と思うようになったのは。
少女は、微動だにしない私の様子に安心したのか、表情から少し力を抜き嘆息した。
「あんたからすれば、あたしの考えなんて愚かでしょうね。だって、『普通じゃないから普通の人間を大切にする』あんたと『普通じゃないから普通の人間を無下にする』あたしじゃ、価値観が違い過ぎるもん。」
でもね、少女は力を抜いた顔を再度険しくし
「あたしみたいに、『いきなり自分が生まれ変わり』だと知った人損ないは、大抵そうだと思うわ」
鎮痛そうな声音で言われ、私ははっ、とする。
『いきなり自分がそうだと知った人達は、自分の力を上手く活かせないだけよ。それだけで、本質的なことは私達『浄化師』と変わらない。』
「……だから、もし貴女がそんな子を見つけたら、正しい力の使い方を教えて、その子を解放してあげて」
いつか、お母様に言われたことを思い出し、反芻する。
「…決めた…。……私は貴女を 『浄化』しない。」
少女は、驚きを隠せない、という風で此方を見詰める。
「その代わり、私から貴女にお願いがある」
こくっ、と唾を呑み込む音が聞こえ、少女は恐る恐るという風に、「…お願い…?」と尋ねる。
「あぁ、とても、とっても簡単なお願いだ」
何処かで、讃美歌の声が聞こえた。