風の恋歌
素敵だと、思った。
彼は、彼女を慈しみ、彼女も彼を慈しんでいる。
それが一目でわかった。
いいな。
なぜか、そんなふうに思った。
いつまでもこの歌声を聴いていたい。
私も彼に、ああいうふうに視線を向けてもらいたい。
そう、思った。
だけど、おかしなことだ。
私は彼には見えないのだから。
彼が私の存在に気づくわけがないのだから。
その事実が、なぜか哀しく思えた。
私は彼の歌に乗って、ぐるぐると駆け回った。
この歌が好き。
この声が好き。
だから、この声の持ち主が好きになった。
私はウィンデーネ、彼は人間。
私に彼は見えるけれども、彼には私は見えない。
私は彼には一生気づかれずに、ただの風として終わる。
私に気づいてほしい。
私のために歌ってほしい。
私を見つけてほしい。
だけど、それは叶わぬ思いだった。