親友を好きな彼
「はぁ~、おいしい」
久しぶりに、こんなに飲んで食べた気がする。
創作料理の店だけあって、どれもこれもが珍しい味付け。
和洋折衷で、食べていても飽きなかった。
「それにしても、一香と聡士遅いね」
すっかり、いい感じに酔いがまわった私は、ふと琉二と二人きりな事に気付いた。
一香はお手洗いに行くと言い、聡士はタバコを吸ってくると言って席を外したきりだ。
もう15分くらいは経つか?
「探してきたら?」
全く変わっていない琉二が、そう言ってきた。
「私が?何でよ。それにしても、琉二ってあんなに飲んで、全く変わってないね?」
「由衣が弱いんだよ。非常階段が奥にあるから、そこを探してみなよ。何か分かるかもだよ?」
「え~?」
ゲームじゃないんだからさ。
お宝でも出てくるわけ?
渋々言われた通りに、二人を探しに行った。
もう、どうでもいいいよと思いつつ、琉二と二人きりなのはまだ苦手だ。
店内の奥には鉄扉があり、上には非常階段のマークがついている。
「こんな場所に?」
ゆっくりと開けると、思った以上にキレイな場所で、非常階段といっても建物の中にあるタイプだった。
階段にはじゅうたんが敷かれていて、ビル全体の非常階段になっている。
一体、どこに二人がいるのか…。
しばらく耳を傾けていると、
「聡士…」
一香の声とともに、甘ったるい息遣いが聞こえてきたのだった。
やっぱりここにいる!?
すっかり酔いが吹っ飛んだ私は、声のする方へゆっくりと歩くと、一つ下の階の踊り場に、一香と聡士がいるのが見えた。
座り込んで…。
キスをしているじゃない!!
思わず声をあげそうになり、慌てて両手で口を塞ぐと、見つからないように階段の陰に隠れる。
それでも気になってしまい、そっと覗くと二人は、お互いの体に手を回して濃厚なキスを繰り返していた。
一体、いつからやっているのか。
その内、聡士の手は一香の胸へと伸びている。
そしてさらに、一香の甘い声は大きくなった。
ちょっと、まさかここで、これ以上の事をするんじゃないわよね?
さすがにいたたまれなくなり、その場を離れようとした時だった。
「大翔の事は忘れろよ」
聡士がキスをしながら、そう言ってきたのだった。
大翔!?
一歩進んだ足を引っ込めて、その場にしゃがみ込む。
どうして大翔の名前が出てくるの?
「聡士だって、いつまでこんな事をするのよ」
息遣いを荒くした一香が、そう反論した。
「だって、俺は一香が好きだから。だから、忘れされてやる」
二人のキスはまだ続いていて、それからどうなったのかは分からない。
その場を離れた私は、放心状態で席へと戻ったのだった。
「何か見たんだ?」
確信犯の琉二が、ニヤッと笑ってきたけれど、それに言い返す気力がない。
そして二人が戻ってきたのは、それから10分後。
何事もないように戻って、笑って話しかけてきた聡士と一香が…。
心底憎いと思ってしまったのだった。