火ノ鳥山の渇人
「さぁ、もう寝よ!」

「ちょっと待って!ロズちょっと動かないで…。」

俺は両手でロズの両目に手を近づけた。

「何してるの?」

その問いに答える余裕は無い。とんでもない集中力と繊細な力が必要だからだ。

「目が…目の奥がぼんやり温かい…。」

「ぶは~!無理!今日はこれ以上無理だ!」

俺は今まで息をしてなかったみたいだ、でも思った通りこの方法いけるかもしれない。ついさっき法力の力は底を付いていた、でもそこから火事場の馬鹿力ってやつで絞り出したんだ!今は疲労感と達成感で心が満たされている。だがロズはポカンとしている。説明は急務だ!

「前にロズ言ってたろ?法力には病を治せる人もいるって、だから俺もやってみたんだ!」

「え…でも…法力を使えるからって…」

「うん、俺が使う法力とはまったく違う。別の種類の法力なんだけど、でもいけそうだ、時間はかかるかもしれないけど」

「それって……。」

「ロズの目を治せるって事だよ!」

ロズはなんだかよくわからない表情をしている。目線は俺と合っていない。やはりほとんど見えていないんだ。何で俺は今までロズの病気の事気付いてやれなかったんだろ。いつも俺は励まされるばかりで、ロズの方がよっぽど辛かった筈だ。家族の事、失明の恐怖と戦いながら、1人誰にも気付かれないこの山を選んで、天に身を任せようとしてたなんて…

ロズは少し、また少し笑って、

「期待しないで、待ってるよ。さ、もう寝よ!」

俺はロズの目を治す。そう決心した。その夜は明るくも暗くもない夜。見届けたのは半月、弓張り月1つ。
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