Z 0 0
今にも消え入りそうなほど小さくなっている森に近づいたのは、意外なことに、鱗に覆われた鼻先だった。
がふ、と、大きな口を薄く開けて、喉の奥で声を出す。
「あ……ピーキー。ご飯は終わったんですか」
森がその大きな鼻に触れて微笑むと、ピーキーは地面に腹をつけて首を伸ばした。
茅野が彼(ピーキーはオスだ)を数日見ていてわかったのは、案外人懐っこい、ということだ。
茅野のように初対面から懐かれることは珍しいようだが、長く一緒にいる飼育員なら大抵の者にはこうして甘えた姿を見せるらしい。
ただラビが言っていたように、例外もいることにはいる。
「森はねー、動物しかまともに相手できないんだよ」
「え?」
茅野の後ろで、条が言った。
確かに、森が人間相手に笑顔を見せているところや、きちんと目線を合わせてどもらずに話しかけているところは、見たことがない。
いつも伏し目がちで俯き加減、口を開けば「ごめんなさい」「すいません」、というのが茅野の中で早くもデフォルトになっている気がする。
だが言われてみれば、反対に動物に対してそんな低姿勢で接しているところも、見たことがなかった。
人間を相手にしている時以外は、至って普通の少女なのだ。