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「だいたいピーキーが茅野の世界に行ってたっていうのも、どういうことなんだ?」
「気付いたらここにいたので、私の落ちたクマの檻とこことが繋がってると思うんですけど」
「ピーキーに聞いたってさっぱりだしねえ……ほんとは森にだけ教えてんじゃないの?」
「うえ!? わた、私ですか!? そんなわけないですよ、違いますよっ」
飛び上がった森が、頭と手を必死で左右に振る。
彼女は知能の高い動物の言葉なら少しだけわかるらしい。
理由は獣人だから、と言われたので、茅野はそれ以上掘り下げて聞くことはしなかった。
自分の常識でわからないものを、無駄に考えても仕方がないと思ったのだ。
「まー、帰る方法がわかるまではここで暮らすって決めたんだから、とりあえずはここのことだよね。緑のゾーンはほぼ接客業だけど、大丈夫?」
「やったことはないけど、頑張ります」
無表情で頷く茅野に、ラビも条も苦笑を返した。
言葉の端々にやる気は垣間見えるのだが、どうもそれを外側に出すのが苦手らしいのだ。
今だって特に力強く意気込んでみせるわけでもなく、淡々と言うものだから、何を考えているのかいまいちよくわからない。
それでも努力家で働き者であることはここ数日の頑張りで十分わかっているので、本音は「もう少し愛想を身に付ければいいのに」ということだった。
「ところで、緑のゾーンと樹のゾーンの他には、なにがあるんですか?」
「水、山、熱帯、森。樹と緑と、あと街を含めると、全部で七つのゾーンにわかれてる」
「全部に担当飼育員さんがいるんですよね。私まだ条さんと森さんしか会ってないです」
「樹のゾーンの担当、俺だよ」
「あ、そうなんですか」
爪や角のチェックを終えた条は、手持ち無沙汰にピーキーが食べ散らかした餌の残骸を片付けはじめる。
ラビと茅野はブラシを持った手を動かしながら、この動物園のことを話していた。
森はピーキーの尻尾の方で、黙々とブラッシングを進めている。