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「まあ、そんなわけだから、紹介は追々、な。ちょっとアクが強いのが多いし」
「そう、ですか」
ラビの言葉は引っ掛かったが、茅野はもともと人付き合いが苦手なせいか、人の顔を覚えるのもあまり得意ではない。
一度にあまりたくさんの人を紹介されたって把握しきれるとは思えないので、順番に少しずつ顔合わせできるならその方が助かるとさえ思っていた。
現に、最初に事務所へ連れて行かれた時、事務仕事を担当しているという職員たちを三人――と、一匹――紹介されたが、全員の顔と名前が一致するのに翌朝までかかってしまった。
親切にも名札を付けているので(動物園なのだから、当然といえば当然だが)それだけで済んだが、名札がなければ、一度に六人を覚えるのはもっと時間が必要だっただろう。
「そういえば茅野ちゃん、町には行った?」
そう尋ねる条に、茅野は頷いた。
動物園島は北端に港がある。
客の出入りはすべてそこから、定期船によってだ。
道が一本きりの方が、管理がしやすいかららしい。
北の港から、島の中央に位置する事務所までは、小さな街が広がっている。
なにしろ、一日ではとても回りきれない広大な動物園だ。
客用の宿泊施設がいくつも立ち並んでいて、同じように土産物屋や食べ物屋も軒を連ねている。
もちろん動物園職員たちの必要もそこで賄えるようになっていて、ちょっとした観光都市の様相を呈していた。
茅野の知っている普通の町とは、少し違う活気があるように思える。
それが動物園を支える観光都市という特殊な状況のためなのか、それとも茅野の知る世界とはそもそも色々な根本が違うからなのかは、彼女には判断のしようもない。
「洋服屋とか雑貨屋もたくさんあるから、今度カローラさんとかアンニカちゃんとか、森も連れて一緒に見に行ったらいいよ」
「でも、私まだお給料貰えるほど働いてないです。それに着るものならみなさんにお下がりいただきましたし」
「え? でも、自分の趣味とかあるでしょ?」
「いえ、着られればなんでも」
「……欲しいものとかないの?」
「うーん……特には」
条は、驚いたように眉を寄せる。
茅野はただ小さく首を傾げた。
そんな二人に、ラビが声をかける。
「おい、そろそろ事務所に戻んぞー」