瑛先生とわたし
                           

「マーヤ 今年のパーティーは すごく賑やかになりそうだよ」


”30人くらい集まるかもって 林さんが言ってたわ”


「最初は 僕と渉とふたりではじめたんだ 

次の年は龍之介とバロンが加わって 

その次の年は 長谷川のお父さんお母さん 

花房の両親に姉さんの家族も入って 急に賑やかになって 

そのまた次は 僕が教えている生徒さんも入ってきて 

みんなで楽しむ会になってきたんだ」


”藍さん どこかで見てるかな”


「藍も どこかで見てると思う」


”きっと きっと見てるわ”


そう言いたくて 私は首の鈴を鳴らしたの

先生の目が優しくなって それから あっ と思い出したように引き出しを

開けて 何かを取り出した



「この鈴のついたキーホルダー ずっと前に 藍にもらった物なんだよ」


”どんな音がするの? 振ってみて”



瑛先生は 私の言葉がわかったみたいに チリン とふってくれたの

それから キーホルダーの想い出を話してくれた



「高校の頃だ 龍之介の家に行く途中にスーパーがあってね 

そこに寄ったことがあった

目の前を歩いていた女の子が 両手に荷物をもってて歩きにくそうにしてた

人がいっぱいだったけど 彼女に気がついた人が道をあけてくれて 

その人に

”ありがとうございます” って にこやかに礼をしたんだ

その顔は こころから礼を言っているって顔で 

ありがとうございますの声もハッキリして気持ちがよくて

そのとき思ったんだ この子 いい子だなって 心に ピンッ て響いた」


”それが 藍さんだったのね”


「そのときはそのまま別れたんだ 肩まである髪の女の子で 

顔は覚えてるつもりだったから この辺に来たら また会えるだろうと思った

だけど なかなか会えなくてね 半年くらい過ぎたころだったかな 

龍之介の家で 彼の妹が僕らに飲み物を運んできてくれたんだ

ドアの外から声がして ”ここにおいておきます” って言って 

顔も見せなかったけど 声に聞き覚えがあったから あっ あの子だって」


”すごい 声だけでわかったの?”


「すごいだろう? 声を覚えてるなんて 急いでドアを開けて 

その子を呼び止めた 

振り返った顔が不思議そうだったけど とにかく ありがとう って言った 

龍之介には 律儀なヤツだなって笑われたけどね」


”ホント 私も笑っちゃう”


「そのとき 足元にキーホルダーが落ちてたんだ 彼女のだってわかったけど 

そのままポケットにしまいこんだ」


”えっ ダメじゃない それってドロボーよ”


「今度会ったとき 返そうと思ったんだよ 

龍之介の家に行けば また会えるだろうからね」


”また会えた?”


「会えたよ 何度も顔を見るうちに だんだん好きになってた」


”なんだか 藍さんに嫉妬しちゃう 

先生が好きって言うときの顔 すごくステキなんだもん”


「何回か会ったあと キーホルダーを見せたら 

持っててくださいって言われたんだ」



そういうと また大事そうに チリン と鈴を鳴らしてくれた

先生の思い出って 色褪せることはないのかもね




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