瑛先生とわたし


今年のパーティーもすんで 12月に入った頃 ひとりの女の人が家にきたの

あっ ひとりじゃないわね 赤ちゃんを抱っこしてたから……

昼間 先生に書道を習いたいって 

先生は 月に3回だけ 家でも教えてるの 

講座に行けない人や 上級者の人 時間に制限のある人が習いにくるのよ

女の人が入会の手続きの紙を書いていたんだけど 紙を覗き込んでいた

先生の顔が驚いて 



「あおさん……ですか」


「はい あおです よく ”そうさんですか?” って言われるんですよ」


「貴方も色の名前を持ったひとなんですね」


「えっ えぇ そうですね」
 


どうしたのかしら 先生 なんだか落ち着かないみたい 

急に立ち上がったもんだから テーブルが揺れてボールペンが落ちたの

それを先生が拾ったら



「ありがとうございます」


「あっ はい どうぞ……」



先生の顔が一瞬だけ懐かしそうな表情になって それから赤ちゃんを見て

こう言ったのよ

「お子さんも一緒で大丈夫ですから 

息子が使っていたベッドを用意しておきますね」 


女の人の名前は 花井 蒼さん

これから私たちに 深く関わってくることになるんだけど 

それは またいつか…… 






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