瑛先生とわたし

5 長谷川虎児の思い込み



「渉、いるか」


「あっ、じーじだ!」



わたしの尻尾を握って遊んでいた渉は、声を聞いて玄関に走っていった。

はぁ……やっと離してくれたわね。

ホント、男の子って乱暴なんだから。

男の子はやんちゃなくらいがいいんです、と家政婦の林さんは言うけれど、

先生の息子なんだから、少しは先生に似てほしいわね。


玄関から 「やったー」 とはしゃぐ声がする。

あーぁ、おじいちゃんったら、また渉になにか買ってきたのね。

来るたびにお土産を持ってくるんだから、甘やかせすぎよ。

長谷川のおじいちゃんは、渉のお母さんのお父さんで、近くに住んでいて、

ときどき花房のオウチにやってくる。


長谷川のおじいちゃんがウチにくるときは、瑛先生にお願いがあるときと決

まってる。

家の玄関の調子が悪いから見てくれないかとか、車のタイヤを替えたいから付

き合ってくれとか、そんなの龍之介さんに頼めばいいじゃないと思うけど、

瑛先生は 「いいですよ」 とニコニコしておじいちゃんの頼みを聞くの。

今日は、どんな頼みごとをもってきたの?







藍が亡くなって7年、渉も大きくなったがまだまだ手がかかる。

男手で子どもを育てるのは大変だろう、俺たちと一緒に住んだほうがいいん

じゃないか、

そうばーさんに言うと 「瑛さんが困ったら手を貸しましょう。

それに私たちと同居したら再婚でませんよ」 と言われてしまった。

えっ、瑛君は再婚するつもりなのか? と渋い顔をすると、

「私たちに遠慮はいらないから、いい人がいたら再婚していいのよ」 と言っ

たこともあるが笑うだけで返事はなかったそうだ。


ばーさんも勝手なことを言いやがる。

龍之介はいつまでも独り身で、孫は渉だけだ。

瑛君が再婚したら、渉に会えなくなるだろうが。

つい最近まで、そう思っていたが……



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