やさぐれ女の純情
手際よく作られたそのつまみは、古雑誌を手にした清久と共に
フライパンに載せられたまま咲樹の目の前にやってきた。
「ん、火傷するなよ」
もう一度台所に戻り、一善のお箸だけを持ってきた清久が
そのうちの一本を咲樹に差し出す。
「これで刺せと? 取り皿は??」
「洗い物がふえるでしょーが」
「でも、せっかく作ってくれたんだからさぁ、せめてお皿に盛るくらいは――」
「この愚か者!」
語気を強めて咲樹を睨む清久の目が、輝きだした。
「水も貴重な資源だと何度も言ったでしょーが! あなたねぇ、これから先、いつ水戦争が――」
――シャリシャリシャリ、んぐっ――
「ねぇ、これ少し硬い。アルデンテ過ぎない?」
「……愚か者が。辞書を引け。アルデンテは、パスタの湯で加減だ」
話を遮られた清久の目から輝きが消えた。
それでも変わらずに咲樹を睨み続ける清久の視線は、不満に満ち溢れている。
最近、何度も聞かされた〝水戦争〟のご高説が始まることを阻止した咲樹は、
その視線に気付いていない体を装い、
フライパンの中の玉ねぎを次々に口へ放り込んでいった。