やさぐれ女の純情
「こらっ、キヨ。津田清久君! おつまみなんていいから、
早くここに座りなさいってば」
「だまれ、アホゥ。すきっ腹に一気などしおって……この愚か者が」
清久は、コンロが一つしかない小さな台所で、
大きめのくし切りにした玉ねぎを炒めながら
淡々と咲樹を叱った。
あのあと、二人は一言も話さないまま清久の住む部屋にたどり着いた。
そして、どんな時でも、例え怒り狂っていても
手土産は決して忘れない咲樹が買ってきたビールで、
なぜか無言のまま乾杯を済ませる。
そのなんとも微妙な空気に耐え兼ねた咲樹は、
清久がトイレに立った隙に一缶のビールを飲み干し出来上がってしまったのだ。
丸いこたつの天板に顎を乗せ、まだぶつくさと呟いている咲樹を背に
清久はシンプルなつまみの仕上げに掛かる。
縁が透き通ってきた玉ねぎに回鍋肉のタレを廻しかけ、
最後に荒挽きの胡椒をふって完成だ。