やさぐれ女の純情


同じもので感動できると、それだけで人と人との距離はグンと縮まる。


ましてやその相手に、


感動できるものに対して知識も経験も遠く及ばない自分を


〝同じだ〟なんて言って貰えたら、


誰だって好きにならずにはいられないだろう。



咲樹にとって社長は特別な存在だ。


ただの上司でも、友達でも、父親でも、もちろん恋人でもない。


二人の関係をしっくりと表す言葉が見つからないのは、それはきっと、


ただの上司に、友達に、父親に、恋人には見せられない自分を


さらけだすことができる唯一の存在だからだろう。


「いいな~。黒柿、憧れるなぁ」


「そうだろう? これを咲樹ちゃんの材料にまわすことはできないが、


 約束通り大きめの屑がでたらあげるよ」



約束など、してはいない。



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