恋……シヨ?‐武藤 雅晴編‐
「武藤くん──っ!!」
彼がこんなとこにいるはずない。
だけど、武藤くんのことでいっぱいだったらしい私は、ほぼ無意識にその名前を呼んでいた。
「誰も来ないだろ、皆向こうで浮かれてるんだから」
そう言ってバカにしたように笑う二人に無性に腹が立ってくる。
こんな人達に捕まっちゃうなんて悔しい…!
自分の不甲斐なさにじわりと涙が滲んだ、その時だった。
「……その手を離せ」
前方から聞こえた声に顔を上げると、驚きで目を見開く。
まさか、本当に来てくれるなんて──…!
「武藤くん……!」
もうそれだけで、私の涙腺は崩壊しそうだった。
けれど、武藤くんは静かな怒りを宿らせた瞳で、獲物を逃すまいと二人を見据えたまま近付いてくる。
その精悍な表情に、こんな状況にも関わらずドキリとした。