今夜 君をさらいにいく【完】
「・・・別に」
「あはは!それじゃー完璧エリカ様じゃん!」
そう言いながら、彼はポケットから名刺を取り出し、何かを書き始めた。
「連絡先交換とか嫌でしょ?恵里香ちゃん。もし・・・気が向いたら電話かメールしてよ」
話してる途中から敬語はなくなり、私の事もちゃん付けで呼ぶようになった。普通ならムカついてしまう事だけど、なぜかアユムには腹が立たなかった。
それはアユムが嫌みのない、優しい人柄のせいなのだろうか。
ホストクラブの名刺には【ジュリア】とお店の名前が書かれてあり、裏に電話番号とメールアドレスが書かれていた。
「・・・気が向いたらね」
「もーつれねぇなぁー」
アユムは笑って頭をかいた。
バーを出ると、頬をかすめる風が冷たかった。腕時計を見るともう11時。私は時計を見ることすら忘れていた。でも、それだけアユムといた時間が楽しかった・・・のかもしれない。
「寒みぃー!もっとこっち寄ってよ」
アユムが私の肩を抱き寄せる。
「ちょ!何すんのっ!?」
私が力いっぱい離れようとしても、アユムの体はびくともしない。