今夜 君をさらいにいく【完】
「ああ、大丈夫ですよ。私、安奈さんの上司なので、他の奴に言ったりしませんから」
「そ、そうですか、すみません・・・」
焦った様子で俯いてしまった妹に俺は更に問いかけた。
「それで、ご両親がいなくなったとは?」
俺の問いかけに言うのを躊躇っていたようだった。
「・・・母は昔病気で亡くなったんですが・・・父が・・・その・・・」
「突然姿を消した・・・とかですか?」
妹はコクンを頷く。
「去年の事でした。ある日突然、多額の借金を残したまま・・・」
暗くなっていく表情に、俺はこれ以上聞くのをよそうと思った。
「すみません、思い出したくない事を聞いてしまいましたね・・・」
「いえ!・・・・・・それから姉は両親の役目を一人で背負って、私のために朝から晩まで働くようになったんです。夢だった美容師の夢も捨てざる負えなくなったのに、私の前では明るく振舞ってくれてるからなんか申し訳なくて・・・」
ズキンと胸が痛んだ。
桜井が美容師を諦めたワケがこんな形で知ることになるとは。
俺はてっきり桜井のわがままかなんかで辞めたのかと思いこんでいた。
なぜあいつはこの間、俺に違うとはっきり言わなかったのか。