今夜 君をさらいにいく【完】


「もしよかったらお茶でもいかがですか?・・・」



いつもならこういう時、さっさと帰るのが俺だが、少し気がかりな事もあったので、妹の誘いに快く返事した。



寝室のふすまが閉められ「狭いですがどうぞ」と、居間に通された。

2人用の小さめのテーブルに、小さいTVと収納BOXが置かれている程度だったが、とても狭く感じた。


いつからここで2人暮らししているのだろうか。



妹は台所から温かいお茶を持ってくると、俺の目の前に置いた。

一口飲むと、喉から胃にかけてじんわりと熱いものが染みわたっていく。飲んだ後のお茶は格別に美味かった。


俺は一息ついてから妹にずっと疑問だった事を聞いてみることにした。



「いつから2人暮らししてるんですか?」


「去年からです・・・親がいなくなってからはずっと2人で住んでいるので・・・」


「・・・親?」



親がいなくなってって・・・どういう事だ?


不審な顔をした俺に、妹は慌てた様子で言った。



「うちの事何も聞いてませんでした!?・・・どうしよう」



桜井は家の事を何一つ言っていなかった。秘密にしようとしていたのか。

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