最悪から始まった最高の恋
彩菜の大きな叫び声に、隣に横たわる円城寺もゆっくり目を開けた。

「起きたのか……?」

「ち……。ちょっと!! これはどういう事ですか!! 何で私がここにいるの?」

 その辺のシーツを思いっきり引き剥がし、グルグル体に巻き付け飛び起きた彩菜。
 バリバリと落雷を受けたような戦慄の閃光が自分の中を突き抜け、気が動転し酷い興奮状態異で、腹話術人形のように、口をハグハグさせながら、やっとの事で声を絞り出す状態だ。

「どうって……。こう言う事だけど」

 そんな彩菜とは対照的に、ゴロンと横向きになり、頭に手を置いて、しゃあしゃあとした様子の円城寺。

「こ……こう言う事って……。酔って記憶を無くした私をここに連れ込んで、お……襲ったって事?!」

 顔面蒼白状態で、呼吸を荒げて吃りがちに話す彩菜。

「襲う? 人聞きの悪い事を言うなよ!! お前が身をすり寄せてきて迫ってきたんだろうが!!」

 襲うと言う言葉に反応して、不快感を顕にした表情に変わる円城寺。

「そんな事あるはずがないわ。私を酔わせてこんな所に連れ込んでおいて!! 信じられない!! 訴えてやる!!」

 怒りの溶岩が体の中から沸き上り、頭から大噴火を何度も起こす彩菜。

「お前から誘っておいて、訴えるだと!! お前が身を擦り付けて誘惑してきたのは店の者も全員目撃してるし、そんな状況で訴えるも何もあるか!! これは合意の上だ!! お前に勝ち目はない!!」

 彩菜の様に声を荒げたりはないものの、冷ややかに怒りを滲ませる円城寺。切れ長の二重の整った目の中の、澄んだ瞳が氷のようになって彩菜に突き刺さってきて、その迫力に正視出来ないような気持ちになってくる。

(私の敗北だ―――)

「お前……。枕営業で俺を誘惑して自分の太客にしようと企んでいたんだろう? それだけじゃ物足りなくて、もっと欲が出て、俺を脅して大金をせしめようって魂胆か?」

 蔑むような冷ややかな目で睨み付け、口角を上げてフフンと馬鹿にするように嘲笑う男……。円城寺!!!
 血が逆流するように怒りのボルテージは上がり、なんか言い返してこの男の鼻先をボッキリと圧し折ってやらなくちゃと思う彩菜だが、こう言う時に限ってこれだと言う言葉が思いつかない。怒りで興奮しすぎて常軌を逸した状態だからだろうか……。

「こ……。この……っ。お……おたんこなすび!!! あほんだら!!! お前の母さんデベソ!!!」

 その言葉を口に出した途端、『うわぁ〜っ。わたしやっちゃったよ。かっこわる……』と思った。悔しい!!! 悔しいけど、究極の言葉が浮かび上がらない。
 
 あまりにもレベルの低い彩菜の反撃に、円城寺は目が点状態……。

 ベッドからサッと飛び降りると、簀巻きのようにグルグル巻き状態で、その辺に散らばっている服や下着をかき集めて、彩菜はバスルームに逃げ込んだ。
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