最悪から始まった最高の恋
 鏡を見たら化粧は崩れて目の回りはキョンシーか?! って感じでとても見られたものじゃない。唇は口裂け女状態……。
 昨日ママさんがこってりと塗りたくって、厚化粧させられたから……。

 バスタブに入って、汚れてしまった自分を清めるように、たっぷりとボディソープを付け、何度も何度も体を洗い、彼奴の匂いが消えるように、髪の毛も念入りに洗った。
 化粧が落ちてノーメイクになった自分の姿は、いつもの素朴な私だ……。

 ――コン……コンコン

 シャワーから上がって来た頃にバスルームのドアをノックする音がした。

「なっ……なによっ!!」

 内鍵を掛けたから、入られる心配も無いし、見られる心配もないのに、ついついバスタオルで体を隠す素振りをした。

「ママさんから君が着ていた服とかバッグとか靴とか一式入ってる紙バッグを預かって来たから、扉の反対側のノブに下げておくぞ」

「分かったから、早く向こうに行ってよ!!!」

 ママさんはこうなる事を狙っていたのかしら? 5年近く働いていて全然気付かなかったわ。なんて酷い人なのだろう……。
 ただ座っているだけでいいからなんて言っておいて、私を騙して!!! 考えれば考える程ワナワナと怒りと嫌悪の気持ちが沸き上ってくる。

 それから、「父ちゃんごめん……」と心の中で呟いた。父のいつもの口癖は、「自分を大事にしなくてはいかんぞ。つまらん男に引っ掛かって、コロリと騙されるんじゃないぞ。 お前が傷つけられて悲しむ姿は絶対に見たくないしなぁ。一人娘の父親ってもんは全く大変だよ。心配で心配で……。父ちゃんの寿命を縮めんでくれよ。父ちゃんはお前の事大事に思ってるし、いつでも味方だからな!!」
 そう言って豪快に笑う父ちゃんの優しい顔が浮かんできた。鏡を見たら泣いている自分の惨めな顔が映っていた。
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