桜涙 ~キミとの約束~
「バースー、バス」
多分、バスに乗るのが好きなんだろう。
ご機嫌な感じで足をブラブラさせながら、なぜか奏チャンにアピールする女の子。
それを見た奏チャンは微笑んでいる。
携帯の時計を確認すると、バスの到着まではあと10分。
寒さしのぎに少し離れた場所に見える自販機でホットコーヒーを買うことにした。
「奏チャン、そこでコーヒー買ってくる。ブラックでいい?」
「ああ。ありがとう」
立ち上がったオレは、自販機へと向かった。
奏チャンがブラックコーヒーを美味いと思い始めたのは高校に入ってかららしい。
オレは甘いの好きだから理解不能だ。
自販機にたどり着いて、お金を投入する。
残念ながらこの自販機は当たりが出たらもう一本のシステムじゃなかったから、なんの楽しみもなくホットコーヒーを二つ買った。
冷たくなった手が、缶の温かさで幸せを感じる。
きっとオレと同じように、冬のバス待ちで冷たくなってきているであろう奏チャンの手も幸せにすべく、オレが踵を返したその時──