朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
柚はそれらの人々の間を縫うように歩きながら、市の様子を興味深く眺めていた。


多種多様な人々がいる中でも、柚の格好はとても目立っていた。


人々は訝しげに柚を見るが、すぐに視線を背けて売買に必死になっている。


(ここは一体どこだろう)


 柚がきょろきょろしながら市を見ていると、「兄ちゃん、兄ちゃん」と縫布や帯を売っている男から話し掛けられた。


私は女だ、と幾分むっとしながらも立ち止まると、男は人のいい愛想を浮かべて柚に気さくに問いかけた。


「その衣(ころも)、珍しいねぇ。初めて見たよ。兄ちゃんは楽人さんか何かかい? 上等な布だ、宮で特別な催し物でもあるのか?」


「えと……」


 柚が返答に困っていると、男は手を振りながら笑った。


「そりゃ宮で特別な催し物があるなら、俺なんか庶民には言えねぇよなぁ。野暮な質問しちゃったな。すまんな」


 男は自分で質問しておきながら自分で答えを考え、そして納得したらしい。


柚もどう説明すればいいのか分からなかったのでそのままにしておいた。


男はそれから商品をすすめ始めたので、お金の持っていない柚は逃げるようにその場から立ち去った。
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