朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「こんなに長く伸ばしたのは初めてだ。どうりで最近首筋がチクチクするわけだ」


 柚は、綺麗な黒髪を忌々しそうに指に絡めた。


「まさか、切ってしまわれるおつもりですか!?」


 由良は顔を青ざめて、柚の顔を横から覗き込んだ。


「う~ん、どうしようかな。伸ばしてみようかな」


「柚様、髪は女の命でございます。女性は髪を長くするのがこの世界の常識です。どうかこのままお伸ばしくださいませ」


「この世界の常識なんてどうでもいいんだけどさ……」


 どうでもよくはないのです、と言いたい気持ちを由良はぐっと堪える。


「……伸ばしたら、暁、喜ぶかな?」


 柚は顔を赤らめ、恥ずかしそうに俯いた。


その姿の可憐で可愛らしいこと!


由良は胸がきゅうっと締め付けられ、その後にじわじわと嬉しさが込み上げてきた。


「喜びますとも! 帝はより一層柚様を寵愛してくださいます!」


 由良は確信を込めて力強く言った。


恐らく暁は、柚が髪を切ようが切まいが関係なく柚を愛してくれると思う。


だが、暁のことを想い、暁に好かれたいという乙女心で髪を伸ばしたと知ったら、柚を溺愛している暁は狂喜乱舞するに違いない。


先程の恋する柚の表情を帝が見たら、どんなに帝はお喜びになることかと由良は思った。
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