Trick or Treat!
ある日、就業中にあかりちゃんから携帯に電話が着信があった。もう4時だから終業まであと1時間もない。それなのにわざわざかけてくるなんて珍しいことだから、いやな胸騒ぎを抱えつつ休憩所へ行って電話をかけると、ツーコールもしないうちに彼女が慌てた様子で電話口に出た。
「あかりちゃん、どうしたの?」
『七海…!ごめん!』
電話の向こうの彼女は半泣きだった。
「何があったの?落ち着いて?」
『あのね、芽依ちゃんが、芽依ちゃんがっ!』
「芽依がどうしたの!?」
『恭達と公園で遊んでいたら、ジャングルジムから滑り落ちちゃってっ!今救急車で南部病院に運んでもらっているのっ!』
全身の血が足から抜けていくような感覚に陥った。体ががたがた震えている。
「わ、分かった…、上司に言ってすぐに向かうから…、それまでお願いできる…?」
『それは勿論大丈夫だけど、ごめんねっ!ちょっと目を離した隙にっ!!』
「ううん。あかりちゃんはわるくないから…。ごめん。急いでいくね…。」
通話を終了をさせたとき、手が滑って携帯を落としてしまう。拾おうとするけど、体の震えが止まらなくてなかなか拾えない。
芽依、芽依、芽依…っ!
「あれ?七海、お前何して……おい大丈夫かよっ!顔が真っ青だぞっ!?」
声のした方を向くと、そこには営業から帰ってきた上川君と山崎君が立っていた。
「上川…君、芽依が…ジャングルジムから落ちたって……それで救急車で運ばれたって…っ!!」
知った顔を見たせいか、涙が出てきそうなのをなんとか堪える。立たなきゃ。芽依の所へ行かなきゃっ!!
両手で顔を数回叩いて気を取り直し、歯を食いしばって立ち上がる。動揺してどうするっ!私がしっかりしなきゃだめじゃないかっ!
「おい、山崎、ちょっと七海を頼む。俺は千歳本部長補佐に連絡して七海を早退させてもらうわ。山崎、お前今日車で来ていたよな。後の仕事は俺がフォローするから、こいつをその病院に連れて行ってくれ。」
「あ、はい。分かりました。」
「いいよ、上川君、自分で言いに行くから…。それに車だって…」
上川君の動きを制しようとするとものすごい目で睨まれた。その迫力に体がビクッと揺れる。
「七海、お前今どんな顔しているか、どんな姿しているか分かっているのか!?」
「……!」
「お前の荷物、机の引き出しだよな。取ってきてやるから鍵よこせ。」
有無を言わさない上川君の迫力に負けて、ポケットから鍵を取り出すと、彼はそのまま休憩室を出て行った。
残されたのは私と山崎君。
「ご、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって…。でも本当に大丈夫。仕事に戻って?」
彼にベンチに誘導されて座ると、いつかのように自販機で飲み物を買ってくれた。ミルクたっぷりで甘めのカフェオレは、少しだけ私の気持ちを落ち着かせてくれる。
彼と目を合わせるのがつらくて、そのままカフェオレを見つめていたら、ふと頭に何かが触れる感触があった。顔を上げると彼は向かいのベンチには座らず、私の前に視線を合わせるようにしゃがみ、ゆっくりと頭を撫でていた。
「迷惑だなんて思わないでください。こんな状態の七海さんを一人に出来ません。」
「でも……私はあなたに頼る資格なんてない……。」
まっすぐに私を見つめる彼に耐えられずに、また私は顔をうつむかせてしまった。
そのうち上川君と愛子ちゃんが走って私の所に戻ってきた。愛子ちゃんは上川君に頼まれて私の荷物をまとめて、それを持ってきてくれたのだ。
「おかあさん!大丈夫!?」
「ごめんね。心配かけちゃって。」
「それはいいんですっ!上川さんが本部長補佐に話をつけてくれたんで、こっちは大丈夫です。補佐も心配してましたよ。急いで行ってあげてください。」
「山崎、お前モバイルWi-Fiルーター持っているよな。落ち着いたら、それで今日の打ち合わせに使った資料送っといて。概算見積書は俺の方で作っておくから。」
「お願いします。それじゃあ行きましょう。」
山崎君が私の腕を取って立ち上がらせて、荷物も全部持ったらそのまま歩き出した。そんな私たちに上川君が後ろから声をかけてきた。
「山崎、傍にいてやってくれよ。こいつ、両親を亡くしているから一人なんだ。芽依ちゃんが支えなんだ。」
上川君のその言葉が私の胸をえぐる。駄目だ。涙がまた溢れそうになる。横にいる山崎君がしっかりと頷くのが分かった。
「分かってます。」
そして本当に私たちは急いで車へと向かった。
「あかりちゃん、どうしたの?」
『七海…!ごめん!』
電話の向こうの彼女は半泣きだった。
「何があったの?落ち着いて?」
『あのね、芽依ちゃんが、芽依ちゃんがっ!』
「芽依がどうしたの!?」
『恭達と公園で遊んでいたら、ジャングルジムから滑り落ちちゃってっ!今救急車で南部病院に運んでもらっているのっ!』
全身の血が足から抜けていくような感覚に陥った。体ががたがた震えている。
「わ、分かった…、上司に言ってすぐに向かうから…、それまでお願いできる…?」
『それは勿論大丈夫だけど、ごめんねっ!ちょっと目を離した隙にっ!!』
「ううん。あかりちゃんはわるくないから…。ごめん。急いでいくね…。」
通話を終了をさせたとき、手が滑って携帯を落としてしまう。拾おうとするけど、体の震えが止まらなくてなかなか拾えない。
芽依、芽依、芽依…っ!
「あれ?七海、お前何して……おい大丈夫かよっ!顔が真っ青だぞっ!?」
声のした方を向くと、そこには営業から帰ってきた上川君と山崎君が立っていた。
「上川…君、芽依が…ジャングルジムから落ちたって……それで救急車で運ばれたって…っ!!」
知った顔を見たせいか、涙が出てきそうなのをなんとか堪える。立たなきゃ。芽依の所へ行かなきゃっ!!
両手で顔を数回叩いて気を取り直し、歯を食いしばって立ち上がる。動揺してどうするっ!私がしっかりしなきゃだめじゃないかっ!
「おい、山崎、ちょっと七海を頼む。俺は千歳本部長補佐に連絡して七海を早退させてもらうわ。山崎、お前今日車で来ていたよな。後の仕事は俺がフォローするから、こいつをその病院に連れて行ってくれ。」
「あ、はい。分かりました。」
「いいよ、上川君、自分で言いに行くから…。それに車だって…」
上川君の動きを制しようとするとものすごい目で睨まれた。その迫力に体がビクッと揺れる。
「七海、お前今どんな顔しているか、どんな姿しているか分かっているのか!?」
「……!」
「お前の荷物、机の引き出しだよな。取ってきてやるから鍵よこせ。」
有無を言わさない上川君の迫力に負けて、ポケットから鍵を取り出すと、彼はそのまま休憩室を出て行った。
残されたのは私と山崎君。
「ご、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって…。でも本当に大丈夫。仕事に戻って?」
彼にベンチに誘導されて座ると、いつかのように自販機で飲み物を買ってくれた。ミルクたっぷりで甘めのカフェオレは、少しだけ私の気持ちを落ち着かせてくれる。
彼と目を合わせるのがつらくて、そのままカフェオレを見つめていたら、ふと頭に何かが触れる感触があった。顔を上げると彼は向かいのベンチには座らず、私の前に視線を合わせるようにしゃがみ、ゆっくりと頭を撫でていた。
「迷惑だなんて思わないでください。こんな状態の七海さんを一人に出来ません。」
「でも……私はあなたに頼る資格なんてない……。」
まっすぐに私を見つめる彼に耐えられずに、また私は顔をうつむかせてしまった。
そのうち上川君と愛子ちゃんが走って私の所に戻ってきた。愛子ちゃんは上川君に頼まれて私の荷物をまとめて、それを持ってきてくれたのだ。
「おかあさん!大丈夫!?」
「ごめんね。心配かけちゃって。」
「それはいいんですっ!上川さんが本部長補佐に話をつけてくれたんで、こっちは大丈夫です。補佐も心配してましたよ。急いで行ってあげてください。」
「山崎、お前モバイルWi-Fiルーター持っているよな。落ち着いたら、それで今日の打ち合わせに使った資料送っといて。概算見積書は俺の方で作っておくから。」
「お願いします。それじゃあ行きましょう。」
山崎君が私の腕を取って立ち上がらせて、荷物も全部持ったらそのまま歩き出した。そんな私たちに上川君が後ろから声をかけてきた。
「山崎、傍にいてやってくれよ。こいつ、両親を亡くしているから一人なんだ。芽依ちゃんが支えなんだ。」
上川君のその言葉が私の胸をえぐる。駄目だ。涙がまた溢れそうになる。横にいる山崎君がしっかりと頷くのが分かった。
「分かってます。」
そして本当に私たちは急いで車へと向かった。