闘志、燃ゆる魂
 敵も残すところ僅か。すでに刃は鮮血であった。刃に印された字がどこにあるかも判別できない。敵が進み、斬り伏せる。首が舞い、残った敵の前に落ちた。ひきつる声を聞いたが黙殺した。首を踏んでしまい、腰を抜かしている。


「い、命だけは……命だけは勘弁を……!」


 気弱な男だ、と感じた。だが、男は震えている。剣を持つ手もどこかぎこちなさを覚えた。


「お、俺は本当は黄巾党がこんな奴らだって知らなかったんだ……! ここに来れば病を治してくれる、ってそれで……!」
「病を治す……?」
「そ、そうだ……。大賢良師張角様の元に行けば、丹薬だって霊水だって貰えると聞いたのに……!!」


 男の悲痛な叫びに、副頭目がいらだちを隠せずにいた。


「ごちゃごちゃうるせえぞ……! 殺れねえのなら、俺が殺ってやらあ!」


 男はもう、物言わぬ存在となってしまった。副頭目が男の首を刎ね、始めて動きを示した。仲間を殺めても副頭目に罪の意識は無かった。そんな副頭目に心から忠誠を誓っているはずがない。ここにいた賊も全て恐怖心からか。だとすれば頭目も平気で仲間を殺す奴かもしれない。


「わりいけど、兄貴の手を煩わせてたくねえんでな。死んでもらうぜ!」


 剣を抜き、馬を走らす。いななきが空に響いた。

 斬撃は速い。幾度となく繰り出される剣。髪が数本斬られ、かすめた。頬から一筋の鮮血が流れる。血は赤。やはり自分は人なのだな、と確信する。剣を受け止め反撃に転じようとしたが、阻まれた。ふと笑う副頭目がいた。よほど血がお気に入りか。興奮しては、舌を舐めている。剣が首筋を捉えていた。貫かれる寸分でかわす。


「ふん……。どうだ、馬に乗ってちゃ分が悪いだろ?」


 副頭目の台詞は、当然であった。こちらはすでに息を乱している。剣の腕も悪くない。やはり雑魚をまとめるだけの力はあった。あちらはまだ余裕の構え、息すら乱していない。

 ならば落馬させるか、とも考えた。剣を振り上げる間、胴はがら空きになる。そこへ石突きを喰らわせる。しかし、これも読まれていた。狂いのない剣裁きで止められ、反撃して剣で追う。

 次第に戦況が不利に陥っているのが分かった。この副頭目、剣の手ほどきを受けているがの如く迷いが無い。差し当たり、副頭目の事だ。一気に殺すよりはなぶり殺すのを生きがいとしているだろう。
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