重なる身体と歪んだ恋情
部屋に戻るとドレスがかけられてて。


「鏡台の前にどうぞ」


小雪にそういわれて鏡台に座った。

そこには弥生も居て。


「私もお手伝いします」


まだ奏さんは帰って無いらしい。だから、


「よろしく」


短くそう言って鏡に向かって小さく息を吐いた。



用意されたドレスを着て、それから髪を結ってもらってお化粧もしてもらって。


「お靴はこれを。バッグには小さな鏡を入れておきますので」


用意周到な小雪の声に「ありがとう」と言うと、


「あ、奏様もお帰りのようです」


開けられた窓から自動車の大きな音が聞こえてきた。

彼はこれから着替えるのだろう。弥生は「失礼します」と急いで階段を下りていく。


「どこか気になるところがありますか?」


伺うような小雪の声。

鏡に映る私はまるで私らしくなくて。


「無いわ」


そう言って鏡台の前にまた座った。
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