重なる身体と歪んだ恋情
小さな頃は舞踏会なんてなかなか連れて行ってもらえなくて。

それは子供だから仕方の無いことなのだけど。

だからといってお婆様とお留守番と言うのは寂しくて。

何度もお願いして連れて行ってもらったことがある。

建物はとても大きくて迷子になりそうなほど。

実際、迷子になってしまったのだけど。

それでも楽しかったのを覚えてる。

あの頃は父も母も私の傍に居て、兄だって優しくて――。


「千紗様、そろそろ下に」


小雪にそういわれて、


「そうね」


立ち上がり促されるまま部屋を出た。



階段を下りていつもの居間に。


「もう着替えてましたか」


すると彼もすっかり燕尾服を纏った後で。


「もしかしてお待たせしましたか?」

「いえ……」


どうせなら、もっと待っていたかったくらい。

短い私の声に彼はニコリと笑って、


「それでは行きましょう」


私に手を差し出した。
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