重なる身体と歪んだ恋情
それから如月の運転する車に乗って、揺れること30分ほどだと思う。


「それでは行ってらっしゃいませ」


恭しく頭を下げて見送る如月を置いて、桐生の家よりも大きな洋館のドアをくぐった。

天井には大きなシャンデリア、エントランスだというのにここまで音楽が聞こえてくる。


「大丈夫ですか?」

「えっ?」

「少し震えてらっしゃるから」

「……」


彼が見ていたのは、彼の腕を掴む私の手で。

どうして震えているのか、なんて私にも分からない。

でも、きっと無理ですといったところで帰れる筈もないし、そんなこと出来るはずもない。

だって、私はこういう時の為に買われたのだから。


「大丈夫です」


小さく答えて、ぎゅっと彼の腕を掴むと奏さんはふっと笑って。


「その様ですね。初めてでは無いのですしもっと気楽に。すぐにこの雰囲気にも慣れますよ」


そして、音楽のする方に歩き始めた。

< 148 / 396 >

この作品をシェア

pagetop