重なる身体と歪んだ恋情
それからは事務的で。


「もう少し南に下れば書店があります。あと5分ほどでしょうか?」


だけど、


「あぁ、それより喉が渇きませんか? 少し急がせてしまいました。この通りにコーヒーのお店があります。苦くないものも用意できますのでそちらに行かれてもいいですね」


なんて言われるとやっぱり私のことを考えてくれてる気がしてしまう。


「……コーヒーより紅茶がいいわ」


そう言うと如月は薄く笑みを浮かべて。


「それでは英国のお茶をご用意できる場所に参りましょう。確かクッキーもあるはずですよ?」

「ならそこがいいわ」


私の声に如月は「ではこちらへ」と手を差し伸べてくれた。

それは手を握るとかそう言ったものではなくて方向を示したものだと知っていたのだけど。


「――?」

「雨が降りそうだわ、急ぎましょう」


ギュッと握って見上げると如月は少し驚いて、それから仕方なさそうに私に笑う。

そして、


「ではそういたしましょう」


私の手を振り払うことなく歩き始めた。
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