重なる身体と歪んだ恋情
すぐさま後ろを振り返ったけれど八重さんは薄い笑みを浮かべたまま軽く手を振って。

彼女は何のために私の前に現れたのかしら?

『新橋の――』

葛城。

聞いたことの無い名前。

そこに誰が居るの?

雑踏の中、如月に手を引かれるまま歩く。


「ねぇ、如月」


私の声が聞こえないのか、如月の歩く速度は落ちないし振り向いてもくれない。


「如月っ、腕が痛いわ」


少し大きな声でそう言うと如月は「あ」と小さく声を上げて、


「申し訳ありません」


とやっと足を止め、そして私の腕を開放した。

少し息を整えるように浅い息を繰り返しあたりを見回す。


「あぁ、書店でしたね。確かもう少し先に――」

「新橋の葛城さんってどなた?」


なんとなく、如月は私の味方な気がして。

それなら答えてくれるんじゃ無いかと期待してしまった。

そんな私に如月はスッと冷たい視線を向けて、


「存じ上げません」


きっぱりとそう言った。

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