重なる身体と歪んだ恋情
バターは何とかなるだろうか?

後は小麦粉に……。

作り方はあの店に店主に頼み込んでみよう。

金さえ積めばなんとでもなる、なんて考え方は好きではないが他に手段が無い。

私があの店の丁稚になるわけにもいかないしな。

後は料理長の山崎に頼めば――。


「――らぎ、如月!」

「あ、はい。どうかなさいましたか? 千紗様」


私としたことが、千紗様の声が聞こえていなかった。

考え事をしていたとしてもなんという不覚。


「英語の辞書が見つからないの。弥生もどこかに行ってるみたいで」

「畏まりました。英語の辞書ですね」


辞書なら奏様の書斎にあるだろう。

だからすぐさま取りに行こうとして、


「あ、今でなくてもいいの。今度英語の本を買ってそれを翻訳する時に、って言ったのだけど……、大丈夫? 如月」

「……失礼いたしました」


全く持って不覚。

彼女の台詞が全然頭に入っていない。

見れば遅めの昼食も終わり、私としたことが食後のお茶も用意していない。


「食後のお飲み物は紅茶になさいますか?」

「紅茶は朝飲んだからいいわ。だから緑茶を」

「畏まりました」


頭を下げて、


「?」


グラッと揺れる身体を自覚した。

マズい。


「如月?」

「なんでも。少々お待ちください」


何とか体制を立て直して今の外へ。

ドアを閉めて一度大きく息を吐いた。

その吐く息が熱い。

雨に濡れたくらいで発熱だなんて……。

とにかくお茶を用意しなくては。
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