重なる身体と歪んだ恋情
その日の仕事は何とか終え、千紗様はご就寝に。

時間が夜の10時。

当然のように奏様は帰られない。

いつもなら奏様が帰るまで待って嫌味のひとつでもいいたいところだが。


「帰るか……」


さすがにもう限界だ。

重たい頭を抱えて熱い息を吐き出す。

寝るのが一番だな。

寝て、明日にはこの熱を下げないと――。



私と郁の住む家はこの屋敷から歩いて10分ほどの場所にある小さな家。

小さいといっても郁と住むには十分すぎるほどの家だ。

勿論、この家を購入したのは私ではなく、桐生要(きりゅうかなめ)様、奏様の父親で先代の社長。

『頼みがある、司』

その頼みと引き換えに私はこの家を貰い受けた。

私がその頼みを引き受けたから、と言うわけでは無いのだろけれど、とても自由奔放な彼は奏様に会社を譲ると大手を振って世界一周旅行とやらに出かけ既に2年。

今では生死すら分らない。

いや、彼のことだから世界のどこかで酒を飲みながらこの世を謳歌していることだろう。


「兄さん、おかえり。今日は早いんだね」


郁の声に「ただいま」とい言葉すら返せずに。


「兄さん!?」


玄関に倒れこんでしまった。


「兄さんっ! どう――!?」

「なんでも……」


起き上がろうとするのに身体が上手く動かない。

間接の節々が悲鳴を上げてる。


「なんでもじゃないよ! すごい熱だ!!」


郁は私の頭の上でそう叫ぶと私の腕を持って抱えて。

あぁ、郁もこんなに大きくなったのか。

なんてくだらないことを考えながら意識を落とした。
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