重なる身体と歪んだ恋情

千紗

今夜も行きたくも無い舞踏会に私は行かなくてはいけない。


「貴女は笑っているだけでいいですから」


なんて。

いつまでたってもお飾りの人形。

それでも英語のほうはそれなりに上達したようで相づちくらいは何とか打てるようになってた。

ダンスも彼の足を踏むことなく無難にこなせてると思う。


『いいよ、私の足の上に乗せて――』


そう言った彼は今でも舞踏会に来たりしてるのかしら？

一度会ったきりで顔も覚えていないけど。


「千紗、さん？」


呼ぶ声に思わず反応して振り返ると、


「やっぱり！　千紗さんもいらしてるなんて！」

「由香里、さん……」


懐かしい顔がそこにはあった。

私と同じように卒業と同時に結婚されたと聞いた由香里さん。

だけど彼女の顔には本物の笑顔が張り付いていて。


「千紗さん、どちら様ですか？」

「あ、えと、彼女は女学校の友人で……」


どなたと結婚したと聞いたかしら？

名前を思い出せないでいると、


「仙道由香里と申します。以前は宮田由香里でした」


彼女のほうから説明してくれた。

彼女がこっそりと「素敵な旦那様ね」と言ってくれたけど私はどう返して良いのか分らなくて。

何とか笑顔を作ろうとする私に奏さんは「お二人でこゆっくり」と時間をくれた。
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