重なる身体と歪んだ恋情
周りのすべてがいつもどおりに動いていく。
如月はハーブティを入れて小雪は焼きたてのマフィンを運んでくれる。
テーブルには紫陽花が飾られて庭を見れば郁の姿が見えた。
「如月」
「なんでございましょう」
「鏡台がなくなっていたの」
変わらない部屋の中で、私が捨てたはずのガウンとシーツ、そしてドアが開かないように置いた鏡台がなくなってた。
それ以外にも開かないように重石代わりにおいていた本なんかは全部本棚に戻されていたのだけど。
「申し訳ありません。私の不手際で鏡を割ってしまいました。すぐに他のものをご用意いたしますので」
きっと、ドアを開けたときに割れたのだろう。それが分かっていたけれど、
「いいわ、いつでも」
如月にそう答えた。
朝食を終えて庭に。
「おはようございます! 千紗様」
郁の声に「おはよう」と返す。
もしかしたら郁はなにも聞かされていないのかもしれない。
だから用意された椅子に腰掛けて、
「今日は何の花が咲いてるの?」
いつもと同じように郁に話しかけた。
すると郁はニコリと笑って、
「紫陽花、ありませんでしたか? あれって土壌が変わると花の色も変わるんです。例えば塀近くにある紫陽花は赤いですが……」
いつものうんちくを話してくれる。
偽りの無い笑顔で。
見上げれば梅雨空はどこにも無くて夏に相応しい空が広がる。こんな日には、
「ねぇ、郁」
「はい、なんでしょう?」
「私を連れて行って――」
どこかに行きたくなる。ここではないどこかへ。
そう呟く私に郁は少し不思議そうに瞬きをして、それから優しい笑顔を。
「いいですよ」
「え?」
「どこに行きましょう。千紗様の望むままに」
「……」
そんな優しい声に思わず泣きそうになってしまった。
如月はハーブティを入れて小雪は焼きたてのマフィンを運んでくれる。
テーブルには紫陽花が飾られて庭を見れば郁の姿が見えた。
「如月」
「なんでございましょう」
「鏡台がなくなっていたの」
変わらない部屋の中で、私が捨てたはずのガウンとシーツ、そしてドアが開かないように置いた鏡台がなくなってた。
それ以外にも開かないように重石代わりにおいていた本なんかは全部本棚に戻されていたのだけど。
「申し訳ありません。私の不手際で鏡を割ってしまいました。すぐに他のものをご用意いたしますので」
きっと、ドアを開けたときに割れたのだろう。それが分かっていたけれど、
「いいわ、いつでも」
如月にそう答えた。
朝食を終えて庭に。
「おはようございます! 千紗様」
郁の声に「おはよう」と返す。
もしかしたら郁はなにも聞かされていないのかもしれない。
だから用意された椅子に腰掛けて、
「今日は何の花が咲いてるの?」
いつもと同じように郁に話しかけた。
すると郁はニコリと笑って、
「紫陽花、ありませんでしたか? あれって土壌が変わると花の色も変わるんです。例えば塀近くにある紫陽花は赤いですが……」
いつものうんちくを話してくれる。
偽りの無い笑顔で。
見上げれば梅雨空はどこにも無くて夏に相応しい空が広がる。こんな日には、
「ねぇ、郁」
「はい、なんでしょう?」
「私を連れて行って――」
どこかに行きたくなる。ここではないどこかへ。
そう呟く私に郁は少し不思議そうに瞬きをして、それから優しい笑顔を。
「いいですよ」
「え?」
「どこに行きましょう。千紗様の望むままに」
「……」
そんな優しい声に思わず泣きそうになってしまった。