重なる身体と歪んだ恋情
それからいつもと変わらない時間をすごした。

本当ならお祖母様のお見舞いにも行きたかったのだけどなかなかそんな気分にはなれなくて。

机の引き出しに入れたままの銀のペンダント。

あれだけでもお返ししないといけないのに。

私がここで幸せになることはない。

もしも大野先生がここから連れ出してくれたら、なんて非現実的なことを考えてため息をついた。

その日の夜、


「もう起きても大丈夫なのですか?」

「……お、かえりなさい」


奏さんに会った。

一緒に住んでいて『会った』なんて変な表現かもしれないけど。


「もう、平気です……」


そう答えると目の前の奏さんは以前と変わらない態度で、


「それはよかった」


と口にした。

けれども私と目をあわせようとはしない。そして、


「弥生、夕食を。食前酒には梅酒でいい」


私を素通りして居間へ入ってしまった。

私がすでに食事を終えているからと言うのもあるかしれない。いつだって彼は帰りが遅くて夕食なんて家で食べるなんて無いことで……。

だからって、

どうして彼のそんな態度に私が罪悪感を感じなければいけないの?

このなんとも表現し難い感情はなに?

私は彼に謝って欲しいの?

そうしたところで彼の事を許せるとは思えない。

だからってこの家から出ることも出来ない。

だったら私は彼と夫婦としてやっていくしか無いわけで……。

グルグル回る思考にため息が零れてしまう。


「どうかなさいましたか?」


心配そうに私を見る小雪。


「少し、疲れたわ。部屋で休みます」


私はそう告げて部屋に続く階段を上った。
< 281 / 396 >

この作品をシェア

pagetop