重なる身体と歪んだ恋情
次の日も奏さんは夕方から誰かのお誕生会に。

もう奏さんは私を誘うことなくひとりタキシードに身を包んでタクシーで出かけてしまった。

運転手をしている緑川がお休みらしくて、如月が代わりを申し入れたらしいのだけど、


「如月がいないと千紗さんが困るでしょう?」


といって。

こんなとき「いいえ」と言うべきだったのかしら? でも確かに如月には傍にいて欲しいし、そこで「いいえ」と言うのは如月に失礼な気がして。

だから私はというとひとり夕食を済ませて如月の入れてくれた紅茶を口にする。

多分、彼は今日も帰りが早い。

なんとなくそんな予感がして。


「小雪」

「お風呂に入りたいわ」


そう言うと小雪は「すぐに」と支度を始めてくれた。

小雪の「ご用意が出来ました」の声に立ち上がりお風呂場へ。

そこで服を脱いで、鏡に映る自分を見つめた。

手首に巻かれた包帯。

それもスルリとほどいて。

私の身体にはもう彼のつけた傷はない。

手首に包帯を巻いているのは彼の罪悪感を煽りたいから。

だけどその傷も小さな瘡蓋のみを残すだけで、お風呂に入ったら消えてしまうだろう。


「それで、いいのかも……」


そうつぶやいて浴槽に身を沈めた。



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