重なる身体と歪んだ恋情
お風呂から出て髪を小雪に結ってもらう。

少しすると、


「千紗様、お水かなにかお持ちしましょうか?」


部屋の外から聞こえる如月の声に「そうね」と答えて、少し黙った。

いつまでもこんなことをしていられない。

これではまるで拗ねた子供と変わらない気がして――。


「如月」

「はい」

「明日、お祖母様のところに行こうと思うの」

「……それは、お祖母様も喜ばれることでしょう」


少し驚くような如月の声に思わず笑いたくなった。

けれど強張った私の頬は緩んだりしなくて、なんだかそれがじれったく感じて。


「だからなにか用意して差し上げたいの。お花以外にもなにか」


懸命に頬を吊り上げてみる。多分私の顔は滑稽に歪んでいるだろう。でも、

『作り笑いでもずっと笑っていれば幸せはやって来るんだよ』

そういった父様の言葉を思い出す。


「それでは暑いので涼しい食べ物などいかがでしょう? 水羊羹とか」

「素敵ね。私も食べたいわ」

「では今から買い付けに」

「今から!?」


驚く私にクスリと笑う声がドアの向こうから聞こえてくる。

だってもう8時だ。お店だって閉まってるはず。すると、


「予約をしてまいります。今年は暑いので毎日売り切れと聞いてますから。電話のないお店なのでこれから行って参りますがよろしいですか?」

「……そんなに美味しい羊羹なの?」

「らしいです」

「なら、ぜひとも食べたいわ」


そう返すと「かしこまりました」と如月の足音が遠ざかっていった。
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