重なる身体と歪んだ恋情

「か、奏さんっ」

「はい」


声が近い。

でも顔は上げられないし彼の方を向くことも出来なくてお湯の中でくるりと向きを変える。

勿論、彼には背を向けた状態に。


「た、確かに今日結婚はしましたけどっ、その、まだお風呂を一緒と言うのは――」


心の準備も体の準備も何もかも出来て無い。

と言うか、夫婦になったらお風呂が一緒? そんな法律は無いはずでしょう!?


「早いですか?」

「……」


遅くても一緒は無理です。


「遅かれ早かれ、私とあなたは夫婦でいずれお互いの裸も見ることだし構わないでしょう?」

「――っ」


背中で、お湯が揺れた。


「それにこんな格好であなたが出るのを待ってたら風邪を引いてしまいそうです」


そう言われたら断る理由が浮かばない。

あ、私が出れば――。

そう思ったけれど、今湯船から出たら私のほうが見られてしまうのよね?

ど、どうしたら……。


「そういえば、時計と鏡が欲しいのだとか。如月から聞きました」

「あ、……はい。不自由と言うか、その」

「構いませんよ。他に必要なものは? あぁ、服も新し物を買い揃えるといいでしょう。これからは着物よりドレスの時代ですよ」

「……はい」


このお風呂のいいところがもうひとつ。

二人が入っても肌が触れること無いくらいの大きさだってこと。


「私、体を洗いますが」

「えっ?」

「背中流しましょうか?」

「……結構です」


クスクス笑う声がお風呂場に響く。

なんて余裕。


「では流してくれますか?」

「へっ!?」


ビクッと反応した私のか身体の回りでお湯が波立つ。

そして、


「くっ、冗談です。でも、興味があるなら見ても構いませんよ?」

「見っ、見ません!!」


思いっきり笑う彼の声が響いて、私はさらに湯船に体を沈めた。

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