重なる身体と歪んだ恋情
翌日、私は歩いて警察に。

通された面会室と言うのは金網の壁があるとても殺風景なところで、夏だというのに背筋に冷たいものを感じるくらい。

しばらく待っていると、


「入れ」


低い声が響いて、


「……先生」


やつれた大野先生が入ってきた。

私をチラッと見て舌打ちをする先生。


「大野せんせ」

「僕はもう先生じゃない」

「……」


突き放すような声に肩が震える。

だけど、私には確かめないといけないことがある。


「先生は、どうして私の前に現れたのですか?」

「……」

「仕事の、ため?」


恐る恐るそう聞くと、


「当たり前だろう」


舌打ちと共に欲しくない答えが返ってきた。


「君が簡単に私の手を取れば桐生の評判は落ちて仕事が回ってくるはずだったのに!」


堰切ったように話し始める先生。


「僕のほうが英語だって上だ! 交渉だって上手くやってた! なのに最後には桐生の名前が出てくる!! だからっ」


昔の面影なんて、もうない。

私と先生の噂を流したり、奏さんの女性関係も暴露したり、そんなことを全部話して、先生は笑ってた。


「だから桐生奏さえ死ねば――」


もう、聞くに堪えなかった。

そしてこんな先生が彼のはずも無くて。


「先生は6年ほど前にも舞踏会に行かれたことが?」


だけど確かめたくて。

その問いに先生は、


「……一体何のための質問です? そんなの行くはずも無いでしょう。僕はこんな仕事、したくなかったんだから」


はっきりとそう答えた。

もういい。

それが聞ければもう十分。


「如月、帰りましょう」


そう言って立ち上がる。そして、


「大野先生、ごきげんよう」


先生に別れを告げた。
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