重なる身体と歪んだ恋情

次の日、朝から司も千紗もいなかった。

彼女に入院の必要は無いからホテルを用意するように伝えたからそこでゆっくりしているのだろう。

私は病室にいて。


「火傷のほうは何度か消毒が必要ですので。あと足のほうですが固定をして――」

「先生、できれば退院したいのですが」


先生にそう申し出た。

仕事もある。

何よりこの自分の姿が気に入らない。

包帯に巻かれガーゼを頬に当てて、足を固定されて。

まるで被害者だ。

結局いくつかの条件を飲むことで退院を許された。

だから服を着替えて、と思ったがここには私の服は無くて。

苦笑したそのとき、ノック音が聞こえた。

司なら服を用意してもらおう。そう思って「どうぞ」と言うと、


「失礼いたします」


入ってきたのは、


「佐和子……」


着物姿の佐和子だった。


「火事に見舞われたとお聞きして」

「相変わらず情報が早い」


私の声に佐和子がクスリと笑う。


「でも奏様のことだから大丈夫だと信じていました」

「それは喜んでもいいのかな?」


そして佐和子はクスクス笑いながら風呂敷を私に差し出す。


「着るものに不自由かと。退院の時にお使いくださいませ」

「……」


そこには私が葛城に置いたままの衣類があった。


「気が、ききますね」

「これでも料亭の女将ですから」


彼女とは、これで本当にお別れだ。


「ありがとう」

「またのお越しをお待ちしております」


佐和子はそれだけ告げて帰ってしまった。

入れ替わりに入ってきたのは司で。


「……葛城の、女将ですね」

「もう別れましたけど」

「だと思いました」
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