重なる身体と歪んだ恋情
我ながら何を言ってるんだか。

あの男を貶めたくて、どこまでも卑怯な手を使っておきながら――。


「お仕事、なのでしょう?」


彼女の顔に笑みはない。

けれど穏やかで柔らかくて、触れたくなる。


「そう、ですね」


触れたら壊れてしまうのを知っているのに。


「それに私にも原因の一端はありますから」


そんな台詞に少しだけ首を傾げると彼女は私からふいっと目を逸らした。


「それは――」


彼のことを本気で好きになった、ということなのか?

そう聞こうとして、止めた。

私にそれを聞く権利はあっても資格はない。

憎まれることを承知でそうしたのだから。



どのくらい、彼女とここに座っていたのだろう?

会話らしいものはそれくらいで、あとはただ、ふたりで座っていた。

時折吹き抜ける風を感じながら。
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