重なる身体と歪んだ恋情
ホテルにいる間は気付かなかった。

火を見る事なんてなかったから。

今でのあの火事のことを思い出すと身体が震える。


「どうかしましたか?」

「え? あ、なんでも……」


けれど不思議と、彼が隣にいると震えが止まった。

なにかしら?

彼があの火の中から助けてくれたから?

私と言う人間は単純で、愚かだ。


「本当に?」

「……はい」


ベッドに座り私を覗き込んでくる彼。

頬を撫でる彼の手には包帯ではなく、革の手袋に変わっていた。

夏だけれど、彼はそれを外したりしない。

夜、このときだけ彼はその手袋を外す。

そしてやけどの残る手で私の肌を撫でるのだ。

これは罰だと言い聞かせるために――。



けれど、寝室をひとつにして良かったと思う。

だって、もう一人では眠れない。


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