重なる身体と歪んだ恋情

「なんでもない、とは?」

「あ、えと、そうね……」


怪訝そうな如月の顔。

あぁ、私ったら。


「もう別に欲しいものなんて」

「若い女性の好みは分かりませんが、横浜(ここ)にはいろんなものが運ばれてきます。勿論、普段着るための洋服も」

「……」

「どういったものがお好みですか?」


そう、聞かれても困ってしまう。

女学校に通うときは矢絣に袴、そしてブーツが当たり前。

家に帰ればほとんど着物で。

確かに少しばかりのドレスは持ってたけれど……。


「もう少し、歩いてみますか?」


そう言われて、


「……そうね」


私はそう答えてまた歩き出した。

だって、あの家の中に籠もっているより、


「あ、あのドレス素敵ね」

「試してみては?」


こっちの方が遥かに、


「そうするわ!」


楽しいんだもの。
< 68 / 396 >

この作品をシェア

pagetop