重なる身体と歪んだ恋情
「他に困ったことはありませんか?」
「えっ?」
「欲しいものとか。買い物も一日しか出てないのでしょう?」
この家に来てからか外出したのは一度だけ。
「……いえ、欲しいものなんて」
お金では買えない。
「そうですか。そういえば本を桜井家から持ってこさせたとか。全部新しいものを買い揃えればよろしかったのに」
彼はそれを優しさだと思ってるのかしら?
「ありがとうございます。けれどあちらにあっても読むものなど居ませんからそれならこちらにと持って来ていただきました」
それに、一度読んだ本には愛着がわく。
子供の頃、自分の名前を書いた絵本。
母が書いてくれた文字も、すべてが思い出。
「どういった本がお好きですか?」
「特にこれと決めてるわけでは……。幼い頃、絵本作家に憧れてたくらいで」
「夏目漱石や菊池寛は?」
「えっ?」
「ゲーテは読まれました?」
「あ、いえ。平塚らいてう先生が絶賛されてたからいつか読みたいと思ってましたが」
読めてない。
そんな私の台詞に奏さんはクスリと笑った。
「女性は誰も平塚らいてうが好きですね」
「……」
そういうわけでは無いと思うけど。
でも、『元始、女性は太陽であった』という言葉に何も感じない女性は居ないと思う。